夢を紡ぐ

メンテナンス後のスーツは、購入したてのスーツより美しい。

努力で偶然は必然に変わると思う。

努力で偶然は必然に変わると思う。

<

来る日も来る日も、スーツと向かいあい、アイロンを掛け続ける日々。

理想のシルエットに近づける為、毎日が勉強でした。やればやるほど疑問が出てきます。
そんな事の繰り返しを3年近くやってきた頃、
自分の技術に少し自信が持てるようになりました。

次に僕は、なんとかこの技術を生かした仕事がないかと、スーツを取り扱っているブランド店や、テーラーに営業を始めました。

個人のテーラーから、ハイブランドのお店まで、目ぼしい所を色々調べて訪問するのですが、自分はただの個人店の店主。相手が個人のテーラーなら躊躇することなく営業する事が出来たのですが、相手がハイブランドのお店となるとこうはいきません。普段この様なお店に入って、買い物をする事もなかった僕には、ものすごくハードルが高かった訳です。

内心は、自分など(どこの馬の骨かわからない) 、相手にしてくれるわけないな、と弱気な考えが頭をよぎっていました。

案の定、まともに対応してもらえず、スーツを作るテーラーにいたっては、クリーニング屋さんのレベルが分かっているので、はなっから相手にもしてくれず、ブランド店の対応は、さすがに優しいのですが(やんわりと) もう間に合っています状態。

良さを分かってもらうためのテストすらさせてもらえないのが事実でした。

孤軍奮闘していた僕ですが、結果が出せない焦りに、次第に情熱も冷めていきました。
お店を支えてくれている妻や、家族の事、そしてお店の経営 の事を考えるとなんとかして早く仕事に結びつけなければ、そんな焦る気持ちで、空回り状態でした。

そんな中、世界最高峰のスーツブランドBrioni(ブリオーニ)が名古屋にもあることを知り、ダメ元!と覚悟を決めて、コンタクトを取ることに。

そこの店長に、事前に電話で説明に伺いたいと話すと、「お会いしましょう。」との返事が返って来ました。
今までにない好印象の返事に、「やったー!!」との思いと、とてつもない不安と緊張に襲われた事をはっきりと覚えています。

12月も半ば。
師走に入り、街も、行き交う人も一段と慌ただしく、僕の頭の中も、気持ちも不安だらけ。

ショップに向かい、遅刻しないように少し早く到着すると、店長はちょうどお客様と接客中だったために30分程外で待っことになりました。

はじめてお会いしたBrioniの店長。その人は、50代半ばで、背が高く、ブリオーニのスーツを上品に着こなした紳士でした。
僕を
待たせたことへの丁寧な詫びを告げられ、ショップの中ではなく、喫茶店でお茶でも飲みながら話しましょう、とのお誘いを受けました。

それから1時間 程でしょうか、僕の熱い思いを聞いて頂けました。
その時、なんとかテストをさせて頂ける約束を取り付け、スタッフが着ているスーツを持ち帰る事が出来ました。

それからは3日程過ぎた頃、自分のお店に、名古屋のブリオーニ店から手紙が届きました。

達筆な筆で書かれたその手紙は、僕が今までやって来たことは、間違いではない、と十分に思わせるものでした。

手紙を読みながら、知らぬ間に自分が涙ぐんでいたことを思い出します。

人に認めてもらえる事がこれ程嬉しいことだとは、

人は人に認められて、はじめて人として自信を持って生きていけるのだと、痛切に感じました。

テストのスーツも合格点を出していただきました。

ここから、今に続く道が始まりました。

こんなチャンスを掴めたのも、ブリオーニの店長がもともとテーラー出身だったので、職人仕事の理解度が高かったことが、チャンスに結びついたのだと思います。

「必然の出会い」
実は、この時店長が “僕との出逢い” に対して言って頂いた言葉です。

偶然ではなく、お互いが必要としたから逢うことができたと。

DSC_0088

 

ABOUT THE AUTHOR

久田 良一
テーラーリングの技術をフィードバックして、スーツのメンテナンスの方法を樹立。
スーツを触診すれば、着た回数、状態まで理解することができる。
イタリアラグジュアリースーツを中心にしたメンテナンスを10年、扱ったスーツは3万着を超える。

夢はクリーニングの概念を超えた、re-creatorリ・クリエータの存在を日本に根付かせ、世界に広めること。

詳しくはこちら
Return Top